岩陰の海中ポートから、もの凄い勢いでタコを乗せた水中スクーターが飛び出していく。
DPと管制船もその後を追って、ギリギリ状況を監視できる位置まで移動した。

悠然とシャチを曳航する侵犯鑑"UNKNOWN"。
シャチの身体には幾本のアンカーが突き刺され、そこからおびただしい血が流れ周囲を赤黒く濁らせていた。
そしてその臭いに誘われてきたサメが数匹その周りをウロウロ様子をうかがうように泳ぎ回っている。
手負いとはいえ特殊海洋生物はサメにとっても近寄り難い特異な存在なのだろうか。

しかしその中の一匹がシャチに喰いかかろうした瞬間、タコがしがみついた高速水中スクーターがその間をかすめていった。

血の濁りを飛び出したところで大きく反転し、水中スクーターは鑑の回りを旋回し始めた。
タコは3周程したところでUNKNOWNに銃撃を開始する。
が、当然の事ながら小さな自動小銃では巨大な艦体にダメージを与えるには至らない。

UNKNOWNはその存在に気付いたのか、にわかに速度を落とした。
タコはシャチを繋いでいるアンカーの艦体側根本に銃撃を続ける。

するとUNKNOWNは船体からロボットアームが突きだし、タコを捕まえようとし始めた。
それを巧みにかわしながらもタコはウィンチの1基の破壊に成功した。

シャチの身体がバランスを崩す。
タコは尚も銃撃を続けたが、そのうちの数発が跳弾しシャチに当たっていた。
シャチの鼻孔から大きな泡が数個「ブクブク」と吹き出した。

瞬間タコの銃撃の手が止まった。何を思ったのかタコは微妙に船体から距離を取りだす。

UNKNOWNははずれかかったシャチを逃がすまいとアンカーのワイヤーを巻取りだした。
すると全てのワイヤーが一瞬で引きちぎられた。
シャチが目を覚ましたのだ。

とっさに向きを変え逃げ出そうとする数匹のサメ、それを一瞬で仕留める。

その巨大なアイアンクローに絡まったワイヤーとサメの肉片を振り払うと、今度はUNKNOWNの艦底に向かって突進していった。
0距離からの直接攻撃に、例えどんな新鋭鑑であっても潜水艦になす術がない。

「まずい!あれでは浸水して沈没してしまうぞ」

生崎がモニター越しに声を上げる。

「いいきみだわ、あの泥棒野郎。あの深度じゃ死体も浮かばないわよぉ」

「冗談じゃない、仮にも他国籍の潜水艦が我が国の領海で消息を絶てば問題は大きい。だがそれより厄介なのは問題以上の脅威だ」

「な・・・なによ」

「特殊海洋生物が確認されて以来、過去彼らが人を襲ったという記録は未だない。
故にその存在を機密事項としてこれた。
しかし人類と特殊海洋生物がこれを機に戦争状態になったら、どうなると思うかね?

彼らには国籍も統治機構もない・・・なにより我々と共通の言語も文化もない。
相手が動物である以上ひとたび開戦してしまったら、停戦交渉など出来ないんだよ。

それは領土の奪い合いや経済権益ではない、純粋な生存競争になるのだから。 どちらかが全滅するまで、終わらない殺し合いになるだろう。
だから今彼らに人間を襲う感覚を植え付けるのはまずい。

少なくとも今は未知の領域が多すぎる」

「確かに一度敵と見なした相手を破滅させれば、動物は本能的に次を求める・・・・か」

「だからってこの状況、どっちに加勢する事も出来ませんよ。」

その時、UNKNOWNとシャチの間に爆発が起きた。

その反動で引き離される両者。
シャチが吹き飛ばされながらも睨んだ先、そこには高速で海中を飛び回る白い影があった。