DPのドック内の管制船室、管制レーダーを見つめて山地が青ざめていた。

「これ・・・何ですかね。潜水艦?でもなんか変・・・なんでこんなに反応がまばらなんでしょ?」

ひばりが後ろから覗きこんでくると山地はギョッとしたように振り返った。
そして軽くため息をつくと、バツが悪そうにこたえた。

「・・・本来なら見つからないものだからだよ。相手はステルス機能を持った潜水艦・・・」

「ステルス・・・って、どこの?」

「領海侵犯だ。こいつは」

「え!外国の?でもなんでこんな反応で解るんですか?
どこかの漁船が落としていったソナーかもしれないじゃないですか」

「この反応はスクリューのノイズなんだ。このレーダーは特殊でね・・・
っていうよりあっちのスクリューが特殊なのかな。
こんなところで隠す事でもないから話すけど、この潜水艦に使われているスクリューモーターはうちの会社が華国(かこく)に納品したものなんだ」

「ちょっとそれって・・・」

「違法ね。兵器転用が可能な部品を海外に、しかも同盟関係にない国に輸出したら。」

管制船室に入ってきた天河が続けた。

「このプロジェクトの設備部分を受注している電気屋さん、
ずいぶんそこらの商売がお盛んだったのは聞いた事があるけど、まだまだ現役とはね。
表向きは大手家電メーカー。でもその技術力は軍事転用にも可能なほどの高いレベル。
それ故一時は“闇の武器商人”とまでマスコミに揶揄された・・・

でも、むしろ今の”隠すことでもない”って話の方が気になるわね。この施設、一応国の管理下なんだけど」

「それを利用したのが国だからですよ。
通常のレーダーでは感知できない、数百回転毎に微弱なノイズを出すように回転軸がずらしてあるんです。
それを敢えて裏のルートから華国に渡して。
そのノイズを感知出来るレーダーは海洋隊の一部の艦船にも付いているそうですよ。あの国よく来ますからね、猫の首に鈴を付けたってわけですよ。
生崎さんなら知ってるでしょ?」

外洋警戒センサーのモニターに見入っていた生崎

「そんな話こんな下っ端に降りてくるわけないだろ、初耳だ。それよりそのレーダーにひっかかっているのってこいつか?」

山地が駆け寄る。

「ん?この船影なんかおかしくないか?なにか引っぱってるみたいな・・・」

モニターの像が拡大される。

「あ”〜!!!これ!」

光学映像には先のサンプル採取作戦の時に負傷した特殊海洋生物・シャチが、複数のアンカーを身体に刺され黒い船体に曳航される様が映されていた。

「海洋保安庁に通報!あんなもの領海の外に持ちだされちゃかなわないわ!」

天河が施設管理室に内線で怒鳴りつける。

「それじゃ間に合わない。むこうの領海を入られてしまう。DPを出そう。」

「ダメだ!この調査活動もこの施設も秘密あつかいだろ、ましてやDPの存在は国防にまたがる秘密事項だ。
侵犯艦に姿を晒すわけにはいかん!!!」

「じゃあ、みすみす調査対象を持ち出させるのか。あれだって解明中の段階じゃ機密扱いだろ!」

「やむをえんだろうな、特殊海洋生物には領海も国境もないんだ。
我々が調査中でも明日にはあちらの領海に泳ぎ去っているかもしれないんだからな」

「・・・そうはさせるかよ」

腕組をした天河が低い声でニヤつきながら言う。

「でもDPは・・・」

「DPは出さないわ、もちろんマグロ弾も。」

そう言うと天河は保管室を呼び出した。

「資料の採取は済んでるわね?・・・じゃサンプルに武器を持たせて・・・そう返すの。
それと水中スクーターの速いのがあったでしょ。あれにタコくくりつけて、これから指定するポイントに射出して。そぐに!」

「何を考えているんですか!サンプルを逃がしちゃうの?そんな事したってあの侵犯船は・・・」

「止まるわ。いや、止まらなくても時間稼ぎにはなるでしょ?なんせ欲の皮突っ張った連中みたいだし。
生きのいいのが、飛び出してきたら見逃さないわ」

「だからってなにも侵犯船にお土産つけなくても・・・」

「だから武器もたせたんじゃない。・・・それになんとなく思うんだよね。
あいつら軍隊のまねごとしてるって事は、逆に同族は助けようとするんじゃないか・・・って」

「カン頼みか、仕方がない局面だが・・・なるほど、これも一つ実験だな。
しかしそれで保安船が間に合えばいいが」

生崎が不安げにレーダーに目をやる。