実験槽に向き合う天河と生崎。

被験体は何を抵抗を試みるでもなくただ水中にゆらゆら身をあずけている。

「・・・ガス・・・マスクか?」

生崎が言葉をもらす。

「なにかの拘束具の代わりにあんなものを被せているんですか?」

「いいえ、我々がつけたものじゃないわ、やつらの中で数多く存在する"タコ"型はあれを被っているのよ」

--- 一瞬、会話が聞こえたかのように被験体がゆらりと生崎の方をかえりみた。

「!!!」

生崎は大きく怯み、一瞬心臓が止まりそうになった。

「心配ないわ、この実験槽はどんなどう猛な生き物も絶対破ることは出来ない  一応今プロジェクト用の特注品なの。ね!」

天河が解析スタッフに愛想を振った。

「ええ、もちろんどんなどう猛な人間も外から襲うことは出来ませんね。この中に入ってしまえば被験体の安全は保証できます」

「どーゆー意味よ!」

「最初の被験体は先生が無理矢理マスクを引き剥がそうとしたら、こっぱ微塵に吹き飛んじゃいましたからね」

「自爆したのか?」

「ある意味での生命維持装置のようなもんかもしれません。  それを調べもせずいきなり・・・まったく」

「・・・あれは気持ち悪かったわ~~~、いきなりベチャーー!だもんね。3日ニオイがとれなかったわ。。。」

「で、スキャンはもうしたんでしょ、どんな感じ?」

「そりゃぁ、相手が相手ですから 異常な箇所てんこ盛りで、逆にまともなところ見つける方が大変なくらいですよ。 皮膚組織もDNA鑑定に回しておきましたが、いったい何がわかるのやら。。。」

「動物・・・ではあるんだろ?」

生崎が基本を正す。

「装備品・携行品以外、例えばマスクや自動小銃を除けば有機物です」

「じ・・・自動小銃?」

「そのサンプルが所持していた自動小銃が厄介でして」

装備品を担当した解析員が生崎に割ってはいる。

「外観から検討をつけてパーツの構成を取り寄せたところ、やはり通常のM16に改造がなされた物だったんです」

「やはり人為的な物か?」

「それがそうとも言い切れないんです」

「・・・?!どういう事?」

天河は顔をしかめた。

「まず、サンプルが所持していた小銃は通常のものに比べ小型化がされています。
それと注目すべき点としてこの小銃は水中に於いても陸上と変わらない威力を発揮する事。要するにそれなりの改造が加えられている訳ですが・・・・」

「?」

解析員が意味深に言いよどむと生崎が少々イラだった口調で突っ込む。

「改造が施されているというのなら、人の手が加えられているという事だろう。部品は?構造は?それを調べれば大方の出所は解るだろう」

「無いんです。追加されたパーツも足りないパーツも。
つまりオリジナルのM16とはビスの1本と違わず、大きさと機能が変更されています。他種の火器類等から交換されたパーツも見つかりませんんでした。
ただ、多くのパーツが本来の用途とは全く異なった役割やレイアウトで使用されていまして、それが逆に武器を知った"人間"では思いもよらない使い方がされているようなんです。
例えばネジやボルトが留め具ではなく、弾丸を弾き出すための動力パーツになっていたりと・・・」

説明している解析員自身がかなり混乱している。

「まさかタコ自らがカスタムしたと?」

「そうは言いませんが、少なくとも人間がした事にしてはあまりに不可解です。銃の知識があるにしてはあまりに仕組を無視しすぎている。無知にしてはその武器としての完成度はあまりに高い。まったく意味不明ですよ」

いきなり荒唐無稽な真実を突きつけられ、一同は言葉につまってしまった。
正に初手でいきなり常識の枠が外れてしまった感じだ。

「このあたりはあたしの専門外ね・・・・。専門家のご見解は?軍隊屋さん」

天河が小銃のスキャン画像を生崎に渡しながら横目で見上げる。

「この件に専門家がいるのかな?
だが有難いことに、その意味不明な生き物が現に目の前に存在しているんだ。やって見せてもらってはどうか?」

生崎の言葉は多分誰かが言わざるを得ない事だったが、その場に居た全員がうなずくのに
一瞬躊躇した。
一人好奇心に笑みをこらえきれない生物学者以外は。

実験槽には話の流れを知ってか知らずか、タコが呑気に漂っている。