近代的 な兵器と戦術を操る海の『軍隊型』
肉弾戦を得意とし個々が統一した戦術規則をもたない『海賊型』

この2つに分類される特殊な生物。

それは『武装海洋生物』と呼ばれ、その存在を知る一部の研究者から『突然変異体』・『人為的に造られた生物兵器』
などさまざまな仮説がすでに論じられていた。

いずれにしろ、そう遠くない将来人類に危険を及ぼしかねない存在。

海洋行政を管轄する水産省は、謎の生物の調査プロジェクトを発足させていた。
調査にあたっては、仮にも武装する対象に通常の装備では危険あると考えられた為、
民間企業で開発が進んでいる小型水中探査艇の試作機「DP-01」と そのバックアップ設備を丸ごと試験運用の名目で借り出した。

DPは完成後、国が管轄するいくつかの調査機関に納入が 決まっていた。
その為その性能に関しては謎の部分も多く、また開発の詳細も大部分が非公開とされている。

「そ!まるで軍の新兵器なみにね・・・・。てかこれ思いっきり武器だよね。
海洋調査が毎度こんなに血なまぐさくっちゃ、サメがよって来て邪魔でかなわないわ~。」

サンプルを持ち帰ったDP-01を、ドックのブリッジから怪訝に見下 ろす女が軽く突っ込む。


大学の研究室からプロジェクトに出向してきた、海洋生物学博士の天河リカ
実質的に調査を取り仕切り、結果報告書も彼女がまとめる。現場のリーダーである。

「殺してないだろうね~?こっちが欲しいのはあくまで生きたサンプルだから。」

キャリアトランクから運びだされるサンプルはどれも グッタリと抵抗する事もなく、調査用の特殊水槽へ流 されるままに移されていく。

「こんなんで死ぬくらいなら、こっちだって総力戦挑まないすよ。
・・・ったくあの状況でも『マグロ弾』5機やられましたからね、回収しても直るかどうか。
気絶してなきゃここまで運ぶまでにこっちが全滅しちゃいますよ」

メカニック担当の山地力斗がぼやく。
彼はDP-01の開発チームのメンバーとして、民間会社サザナミ電気工業から今プロジェクトに出向。
DPのハードとその周辺のシステム調整を担当している。

「だいたいがなんであんな物騒な生き物の調査に、海洋保安隊にでも協力要請しないんすか?」

「魚とるの仕事じゃないんだってさぁ、あそこ。
鋼鉄の投網でも持ってりゃ借りられたんだろうけど。

それにうちのクライアントがね、そちらさんにたっくさん投資していいもん作ってるから貸してもらえって言うもんだから~。
でも近頃の家電屋さんてのは物騒なもんまで作ってのね~。・・・あ、おたくこっちが本業だっけ?」

「・・・・さあ、よその部署が何してるかは知りませんがね・・・。
なんにせよ、DPはあくまで環境調査を目的に開発されたんですから。あんまり無茶な使い方は出来ませんよ。
マグロ弾だってもともとは超深海の資源開発が目的で頑丈に造ったユニットなのに。。。。
ケンカの道具じゃないんすから   て・・・  ん?なんすか?」

山地の話なかばで、天河が出入口の方を 不快な顔で睨む。

「・・・・あ・・・・。」

遠慮ぎみ入って来たつもりが、天河と目が合った瞬間にはすでに両足を思いっきりブリッジに踏み込んでいた。
大柄な男は今更引き返せず、さりとて開き直れる状況でもない。

「誰すか?」

「知らないわよ。」

いきなり冷たくネガティブな空気に当てられ、言葉を発する機会を失った男。
その後ろから、もう一人小柄な女が顔を半分隠して覗き込んでいた。

「えーっと、一応ここ部外者立ち入り禁止なんだけどぉ・・・てか、こんなところに部外者が居るとも思えないんだけどぉ
どちら様か聞いていいのかしら?」

「申し遅れたが、わたくし国防海洋隊・海曹長、生崎竜道である
・・・ります・・・・ほ、ほらほらお前も入って挨拶挨拶!」

「ちょ~っと待った。聞き捨てならないわねぇ
あたしらは水産省にかこわれてここに居るのよ、すなわちここは水産省の領分なの。
部外秘調査だからこそ保安隊にだって協力求めないで、危なっかしい生き物とドンパチやってんの!
それが今更軍隊屋が出て来て、何横取りしよってのよ」

「あの、先生・・・泣きそうですよ。この人

で、なんの御用ですか?」

天河にいきなり捲し立てられ、引き攣った表情は大きなサングラスでも隠しきれない。
しかし何かを飲み込んだように息をつくと生崎が状況を立て直そうとする。

「DP!DPの視察に来ました!
あたくし矢ノ内ひばりと申します!二等海曹です。」

今度はいきなり後ろから膝裏をケリ崩された格好の生崎の顔がいっそう引き攣り、多分もう涙目になっていた。

「・・・ったく、近頃の軍隊は乱れきっておるね。。。」