静かな海底の世界。
その静寂がまた無数の泡と共に破られる。
どこからともなく飛来する8本足の兵団。
その体の大きさにはあまりある巨大なマスクに自動小 銃をかまえたタコの群れ。
向かう先には不気味に目を光らせ、これまた巨大なハサミを引きずる異形のカニの群れが向かってくる獲物を待ち構える。
やがて両者は激しくぶつかり、そこら海域が戦場のように荒れ狂う。
小さな生物が暴れ出せば、それに誘われて大きな者も現れてくる。
巨大なアイアンクローを振り回すシャチが牙を剥けば、背ビレにローターが回るサメがバルカン砲で応戦し、カメが甲羅に乗せた砲台が火を吹けば、舞い上がった砂 煙から無数のカニが剣振りかざして襲いかかる・・・・
謎の『武装生物』同士のこのような激しい戦闘はすでに海底の世界では珍しい光景ではない。
何を奪おうとしているのか、何を守ろうとしているのか。目的すらわからないまま、彼らは夢中になって戦い続ける。
しかし何故かその戦場に悲壮感はなく、ただ騒がしいのみの活気に満ち溢れていた。
騒然とする海域。
それを音も光も届かない暗闇から冷たく見つめるモノがいた。
「海域のスキャン完了。GPSとの情報リンク・・・・完了」 |
・・・・すると、もの陰に隠れていた巨 大なポッドから数発の物体が、戦場めがけて一斉に飛び出してきた。
突如現れた黒光りする魚群は、そのまま武装生物達に襲いかかる。
不意を突かれ混乱する戦場、武装生物達は訳がわからないまま、敵味方なく正体不明の魚群に倒されていく。
必死で自動小銃で応戦するものもいたが、その黒光りする身体は弾丸をことごとく跳ね返し
猛スピードで標的を蹴散らしていった。
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海の静寂がふたたび取り戻された時、辺りはまるで潮も時間も止まったようだった。
生臭くにごった海には無数の武装生物の残骸が漂い、黒光りする魚群がそれを縫うように旋回する。
その奥からライトを照らした潜水艇が侵入してきた。
灯に浮かんだ魚群達は速やかに道を開け、潜水艇を招き入れる。
2つの巨大な目をキョロキョロさせながら残骸を物色するかのように進む潜水艇。
・・・と、何かに気付きクルリと向きを変え岩陰を照らす。
それを合図にしたかのように魚群が寄ってきた。
そこには自動小銃を構えた1匹のタコが息を潜めていた。
魚群が再びヒレを赤く光らせ微細な振動を始める。
するとタコは銃を横向きに頭上に掲げ投降の意思を示した。
潜水艇はアームでその銃を取り上げ、タコを回収ケースに採取すると魚群を率いてその場を離脱していった。