
		あれからどのくらいの時間が経っただろうか。
			
			
		かつて路上生活を送る中で”こぞぅ”と出会い、不思議な友情を分かっていた”男”も
		今では古いつてで保健所の属託職員として働き、住所も持つようになった。
		酒癖が悪いのは相変わらずではあるものの、相手が動物では揉め事起こすでもなく
		それなりに穏やかな日々を送っていた。
			
		住む所が決まった当初、こぞぅと仔ぶたを引き取り共に同じ屋根の下に暮らしていたが
		いつの頃かこぞぅは仔ぶたを置いて、一人帰らなくなってしまった。
		気まぐれな性格はもとより、気がむけばまた帰ってくるだろうと男は敢えて探すこともしなかった。
			
		「命ってなんだろうなぁ。少なくとも平等なもんじゃぁねぇよなぁ」
			
			
		鉄格子の部屋でうなだれる老犬の頭を撫でながら男がつぶやく。
			
			
		「オレもさぁ、お前と同じ野良犬だったんだよ。
		世の中を捨てて自分を捨てて、でもあれはあれで自由だった。
		世間からは白い目で見られはしたが、気にしなければ別にどうってわけじゃなかった。
			
		そこらに寝てたからって捕まるなんてこたぁなかった。まぁ、寒い時期は軽くおまわりからかって、牢屋にお世話になるってことはあったがな」
			
			
		老犬の前に置かれた空の餌箱を脇にどけると、男は老犬を抱き込むように背中をさすった。
			
			
		「お前は何は好きで野良犬になった訳じゃない。
		ただ勝手な人間に捨てられて、行き場をなくして腹をへらしてただけなのになぁ・・・」