貯金箱にお金を入れる。それは実にあたりまえの行動。
しかしそれは屋外でする事となるとちょっと違う。

『チャリーン・・・』        「・・・ゲプ!」

「じゃあね〜。かわいい“こぶた”ちゃん★」
小学生達が手を振って去って行く。

また少し重くなった体を引きずるように、この“こぶた”は歩きだす。
目に大粒の涙をためて。

「ピ・・ピー、ピー・・・ゲプ!」

貯金箱はお金を食べるのではない。貯金箱はお金を消化しない。入れれば入れる程貯まってゆく。
貯金箱が重くなって喜ぶのは貯金箱自身じゃない。身体が重くなれば当然つらい。
だから貯金箱はお金が大嫌い。

貯金箱は自分でお金を出す事が出来ない。コインが1枚や2枚の時は転がった時に偶然背中の“一の口”から出てくる事もあった。
しかし今ではかなりの額が貯まっている。中には無造作に押し込められたお札もあるだろう。
こうなってしまったら割る以外に中味を出す事は不可能だ。しかしそれは自らの死を意味する。

今日も人はこのこぶたにお金を入れて行く。それは悪意ではなく、むしろ善意に近いのかもしれない。
「やめて。体が重くなるから。」必死に訴えても、この言葉を人の耳は「あ〜ん!早くちょうだい!!」と変換してしまうのだろう。
だからこぶたはなるべく人目につかないように、街の裏通りや道の隅を歩く。


いつも人通りの多い昼間は何処かに隠れているのだが、近頃何者かにこぶたは追われている気がしている。
だから危険な昼間でも常に動き回らざるをえない。

その影がまた忍び足でこぶたとの距離を縮めてきた。